総合的な学習・探究の時間」が挑む公教育再構築の課題と可能性
―静岡県立大学教職専門科目受講学生の活動に学ぶ―
(Web加筆版)
馬居政幸(静岡大学名誉教授)
はじめに
本稿は、2022年度から3年間、静岡県立大学食品栄養科学部の非常勤講師として、教職専門科目の「総合学習の時間」(栄養生命科学科 栄養教諭免許取得希望)と「総合的な学習の時間の指導法」(食品栄養科学科、環境生命科学科 高校理科教諭免許取得希望)を担当した経験に基づき、特に2023年度の学生による活動実践の記録を下記3種の視座から考察した結果の報告文である。
⒈表題に示す公教育再構築の課題と可能性を問うための第一歩として、下記2種の教職専門必修科目の指導の場を活用し¹⁾、日本の公立学校の授業と活動を枠づける「教師」「教科書」「教室」「時間割」の在り方を問い直す作業(転換)に挑む。
◆小中高の全ての教科の教員免許取得必修科目である「総合的な学習の時間の指導法」
◆栄養教諭と養護教諭の免許取得に必要な「道徳、特別活動及び総合的な学習に関する内容」
特に、小中学校の「総合的な学習の時間」と高等学校の「総合的な探求の時間」の実践を本来の目的を志向する教育実践に転換するための方法と課題を、3種のチーム単位の活動によって受講者が見出す契機を実証的に開示する。
⒉小中「総合的な学習の時間」と高校「総合的な探求の時間」の「目標を実現するにふさわしい探究課題」として、学習指導要領に記載された「現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題」に注目し、下記3段階の受講学生(チーム単位)の活動過程を分析・評価する。
➀「現代的課題」と総称される社会事象を「多様性」「多元性」「可変性」という三種の観点から問い直す必要性を実証的に理解するための調査探求のテーマをチーム別に構築する。
➁総合的な“学習(共有化)”から“探求(個人化)”へと進行する学習目標の変化に応じた調査と探求の内容と方法をチーム別活動によって構築する。その過程において、“情”と“意”と一体化した“知”の生成の契機(最先端分野で活躍する特別講師招聘)を準備することで、一人ひとりの主体的、対話的、深い学びの身体化を経験的に内在化する。
➂上記2種の段階の過程と成果をPowerPointにまとめ、チーム単位にプレゼンテーションを実施し、チーム間での相互評価を繰り返す。その作業過程の積みかさねの過程において、チーム別調査探求成果の共有化と個別化(個人化)の視座から現代的課題に挑む方法と課題を内発的に覚知・表現することを試みる。
⒊上記教育実践(“教師・教科書・教室・時間”転換装置の設置)の分析・評価により、小中高の学習指導要領の「総合的な学習・探求の時間」の目標と内容の記述様式が、7度の改訂によって学習指導要領が構築した日本の公教育システムの中核を構成する教科書検定システムの外側に置かれていることを、実証的に明記する。次いで現代的課題の恒常化を避けえない日常生活を構成する社会的システムの中核に現在の公立学校システムを置くことの機能的合理性への問いを提起する。そして、3チームの皆さんが創る作品とその作業過程の学びの記録に基づき「総合的な学習・探求の時間」が求める公教育再構築の課題と可能性の具体性を検証する。
1. 受講学生の誰もが教える側に、講師の私が学ぶ側に
私は上記のように、2023年度後期に静岡県立大学(以下県大)食品栄養科学部の非常勤講師として教職専門科目を担当した。科目名は栄養生命科学科の「総合学習の時間」と食品栄養科学科、環境生命科学科共通の「総合的な学習の時間の指導法」の二種に分かれていた。前者が栄養教諭、後者が高校理科と取得免許が異なることが理由だが、免許種の区別なく必修化された教職専門科目「総合的学習・探求の時間の指導法」(以下総合指導法)と位置付けての講義と判断した。
受講生は3学年10名である。学科単位に3チーム(4人、4人、2人)に分かれ、15時間2単位の講義と活動によって作成したパワーポイント(以下PPT)をチーム名、調査探究テーマ、スライド枚数、専攻・男女別人数、取得免許状の順に紹介しよう²⁾。(チーム名ワンクリックで作品開示可です)
☆チームりんちゃん:食育と防災 スライド165枚:栄養生命科学科(女性4名 栄養教諭)
☆チームまいまい:AIと人間の在り方 スライド106枚: 食品生命科学科 (女性3名 男性1名 高校理科)
☆チームcoffee:男女ともに幸せに生きる~身近になった社会の問題や取り組みについて考える~
スライド120枚:環境生命科学科(女性2名 高校理科)
2025年6月10日